密やかに進め 中編 |
何でも知ってる古時計 おじいさんの時計 綺麗な花嫁やってきた その日も動いてた 嬉しい事も悲しい事も みな知ってる時計さ 今はもう動かない その時計 百年休まずにチクタクチクタク おじいさんと一緒にチクタクチクタク 今はもう動かない その時計 『「大きな古時計」より』 |
進んでしまった針は決して 戻すことはできない 針が指す時だけが永遠 求めても変わらぬ今慟哭 指し示された現実は 辛いだけですか? 「不二先輩。今何時っすか?」 聞かれたのは時間だった。そう、ただ時間を聞かれただけ・・・・。 だけど見つめられた瞳が釘をさし、無意識に唇が動く『じ・か・ん・を・い・わ・な・い・で』。 それは二人だけにわかる二人だけの合図。 時間をいわないで 「不二・・・・話があるんだけど。」 「何、英二?」 菊丸に呼び止められた不二は鞄を持ったまま立ち止まった。 今3−6の教室には二人っきり・・・。 「不二にとっておちびってなに?」 菊丸の口から単刀直入に紡がれた言葉は不二の予想外のものだった。 無言で見つめ返す不二に菊丸は再度問う。 「不二は・・・おちびが好き?」 「・・・・・。」 二人の間にはとても冷ややかな時がゆったりと流れた。 なにも言わない不二、不二を直視することができずただ言葉を紡ぐ菊丸。 「何で英二がそんなこと聞くの?」 「俺は不二が好きなんだよ。知ってるよね。」 「・・・・・・・・。」 やはり不二を見ずに呟く菊丸。 「不二はおちびが好き?」 今度は不二を見据えはっきりと聞いた。 不二も菊丸を正面から受け止める。 「英二は僕になんて言って欲しいの?・・・僕だって英二が好きだよ。」 不安だから聞きたい。 不安だから試してみる。 二人の不安が空回りして、二人の時がネジレだす。 「不二が好きだけど・・・大好きだけど。不二と居ると辛いんだ。」 「僕は英二が好きだし、英二だけを見てるよ。でもそれだけじゃあ君には足りないんだね。」 「お互いが辛いならきっとこの恋は本当じゃないんだよ、不二。」 「英二。僕がいくら言葉を尽くしても君には伝わらないなら・・・僕の言葉なんて無意味だね。」 「言葉って難しいね・・・。不二が今だってこんなに好きなのに・・・でももう駄目なんだ。ごめんね。」 菊丸が最後通知のように不二に呟いた言葉。それは二人の終わりの言葉。 「僕も英二が大好きだよ。でもさよならなんだね・・・。」 「・・うん。」 二人は簡単に二人の時計を手放した。 二人の時計は動きを止め、針は時を刻むことを止めた。 「英二。」 不二が顔を上げると菊丸は泣いていた。 泣きたいのは不二にとっても同じこと、だけど菊丸の涙を見てどうして不二が泣けようか? 「ごめんね、不二・・・俺そんなに器用じゃないから、不二の顔みてももう笑えないよ。」 「英二、今は僕が泣かせてるんだね。」 ―――もう英二を泣かせないって心に決めたのに・・・・こんなにも簡単に敗れてしまう決心だったんだ。 「不二は悪くない・・・全部俺のわがままなんだ。でも、それでも引き止めて欲しかった。」 そう呟くと菊丸はあっという間に走り去ってしまい。 後には不二だけが一人残された。 二人の時計は止まったまま・・・壊れた。 |
| ← 小説TOP → |