密やかに進め 後編


真夜中にベルが鳴った おじいさんの時計
お別れの時が来たのを 皆に教えたのさ

天国へ昇るおじいさん 時計ともお別れ
今はもう動かない その時計

百年休まずにチクタクチクタク
おじいさんと一緒にチクタクチクタク

今はもう動かない その時計

  『「大きな古時計」より』




  時が止まりまた動き出す 止まったままの時計が壊れたけど
  新しく時を刻む時計はまた手に入るよ 必ず


 僕が英二の事を好きだってことに偽りはない。英二も僕が好きだって言っていた。
なのに何故二人は別たれてしまったのか?
 その答えは僕の勇気のなさ。英二を引き止めて上げられなかった僕の過ち。

 僕と英二が別れた日は、“二人”の腕時計が壊れた日になった。


 「英二。どうしたの?全然、集中してないみたいだけど。」
 先程からネットに引っ掛けたり、アウトを連発している英二に堪らなくなり大石は声かけた。
 「大石。・・・集中できないんだ。」
 「英二、顔色悪いけど何かあった?」
 心底心配げな大石を尻目に視線はただ一人だけを追い掛けてしまう英二は自棄になり呟いた。
 「もうどうでもいい。だって本当は不二以外、何も要らない。」
 「英二・・・・。」


 英二の様子を眺めていた不二はそっと目を伏せ一人呟いた。
 「今更何が言える?」

 「先輩がいらないなら俺が貰ってもいいっすか?」

 「越前君。」
 唐突に背後からかけられた声に振り向き無意識に厳しい視線を向ける不二に臆することなくリョーマは続けた。
 「菊丸先輩と先輩、別れたんっすよね。」
 「・・・・・・・・・。」
 黙り込んでしまった不二に越前は帽子を被り直し、やれやれと言った表情で呟いた。
 「不二先輩、ちょっと耳借りますよ。」
 「えっ?」
 そう言うとリョ―マはすばやい動きで不二の耳へフ〜と息を吹きかけた。
 「何?!」
 突然のリョ―マの行動にかわすことも出来ずに驚きの声を上げた不二。
 ところがコートの遠くの方から二人に向けて声が飛んできた。
 「ふ、不二、おちび!!」
 「英二・・・・。」
 「菊丸先輩どうしたんッすか?」
 「・・・ちょっとこっち着て・・。」
 慌てて駆け寄ってきた英二が二人をじっと見つめていたが不意に小さく呟き不二とリョーマを引っ張ってコートから連れ出した。


 「なんか用っすか?」
 真っ先に口を開いたのはリョーマ。
 「・・・。」
 しかし英二は二人になんて言っていいのか判らず・・ただ黙り込んでいるだけだった。
 「先輩、話がないなら先に練習に戻りますけど?」
 「えっ?おちび待って・・・。」
 リョーマは慌てる英二の言葉をあっさり無視してコートに戻っていった。
 残された二人は気まずそうに互いの視線を反らしていたが不二は一呼吸すると決心したように呼びかけた。
 「英二。」
 「ふ、不二が悪いんだからね!俺と別れたばっかなのにおちびと見せ付けるようなことするから・・だから・・・。」
 「英二、見せ付けるって・・・・。」
 「だっておちびと楽しそうに内緒話してたじゃないか!」
 「あれは・・・もしかして英二は越前くんに妬いてるの?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
 不二の言葉に英二は真っ赤になって二の句が告げなくなった。
 「ずっと越前君、越前君って言ってたのは・・・二人のことを?」
 「そうだよ!だっておちびが入学してから不二はおちび、おちびって練習だっておちびとばっかり・・・・・。」
 「そんなこと。」
 不二がポカーンと呟くと英二は怒って言い返した。
 「そんなことじゃない!ずっと寂しかったんだから!!」
 「あははは。」
 不二は英二の怒り顔を見て更に笑い続けた。
 「なんで笑ってんの!俺は怒ってんだからね!!」
 「英二、ごめんね。僕はなんて馬鹿なんだろう。」
 「ふ、不二?」
 「英二、僕は英二が大好きだよ。越前君なんて関係ない。」
 失いかけて初めて気づいた勇気、不二は今を逃せばきっと後悔しただろう。
 「不二・・・俺も大好き!」
 不二めがけて飛び込んできた英二を少しよろめきながらも受け止め、その重みすらも幸せとして感じていた・・・その時。

 「今は練習中のはずだがそこで何をしている?」
 「「手塚。」」
 「二人ともグランド三十週。」
 「え〜〜〜!」
 「行こう、英二。」
 ぶーぶー文句いいそうな英二をそう言って清々しい笑顔で遮った不二が手を差し伸べると英二は何も言わずにその手を取り二人は走り出した。


 「仲直りしたんっすか。」
 「越前、見てたのか?」
 「あの二人、まだまだッすね。」
 先程の不二の笑顔を思い出し手塚は少しだけ微笑んでそうだな・・・とそっと呟くとコートへ戻った。 




 終わり。。。











 *****オマケ*****



 「おちびのお陰だね。」
 「そうだね。」
 不二と英二は話しながら走っていた。
 「1つだけ聞いていい?おちびってもしかして不二のこと・・。」
 「英二・・・まさかとは思うけど本気で言ってる?」
 不二はリョーマが誰を好きだったか知ってるだけに英二の言葉は少し残酷に聞こえた。
 「えっだって・・。おちびも何かと不二とくっ付いてたし仲良さそうだったから・・。」
 報われないリョーマが何故か哀れに思えてきた不二。
 「英二。越前君にはそれ言わない方がいいよ。」
 「エッ、何で〜〜。」
 間違いなくリョーマは憤死する。
 「何でも。」

 「じゃあ、不二はおちびのこと。」
 「英二だけだよ。決まってるじゃない。」
 「そ〜うだよねv」
 「そうだよ。」


 
 「あら?お母さん、修理に出そうと思ってた周助の時計が動き出したみたいよ。」

 カチカチ・・・新たに刻み始めた時を・・・永遠に・・・・・。






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