恋が本気になるまで 8


幸せをつめた星の砂 彼がそっと手渡した
暖かい気持ちに満たされた

星の砂が枯れた時 二人の別れが見えた 
彼がそう呟いたけど

誰にも見えっこない運命が別つ時なんて



 「おっはー、みんな元気かい〜。俺は死にかけてたよ〜ん。」
誰もが待ちわびた声が部室に大きく鳴り響いた。
 「英二!」
 「やあ不二!なんか久しぶりだね。」
 「もう大丈夫なの?英二なんか痩せたみたい。」
不二先輩の言葉に菊丸先輩が「そう?」と言って自分の頬に手を当てて見せる。その仕草が微笑ましくて本当に戻ってきたんだと思えた。
 「もういいのか?」
 「部長様ご心配おかけしました!」
菊丸先輩が部長に敬礼するような形でそう告げるとさっさと違う声のする方へ行ってしまった。
 「英二心配したんだぞ。」
 「ごめん〜大石、でももう完全復活したよ。」


 「先輩。」
俺は先輩の背後に近づくと声をかけた。
 「ああ゛、おちび!昨日のお礼が言いたくて・・・・。本当にありがと。」
菊丸先輩はいつもの特大笑顔で答えてくれた。それが俺にとって一番の”お礼”だと思った。
 「いいっすよ別に元気になって良かったっすね。」
 「うん!昨日おちびが来てくれたお陰かもネ!!」
菊丸先輩はうんと言った後俺の耳に顔を近づけて内緒話をするように囁いた。先輩ってホント罪な人ですねだって周りの視線がいたいっすよ。特に部長凄い目で睨んでるんですけど・・・・・・・・。
 「おちびって、何しても顔色があんま変わんないのな。昨日の・・・。」
先輩は昨日のキスのことを言っているのかくすくす笑いながら小悪魔のような事を言ってのける。
もしかしてからかってます?
反応見て楽しんでます?
でもそれって誰と比較してるんですか?
 「菊丸先輩、快気祝いに相手してあげますよ。」
俺は内心を押し隠しいつも通りの平然と言ってみた。
 「いいよおちび、負けたらファンタね!」
元気いっぱいの先輩。でもそれって空元気でしょ?どうして部長を見ようとしないの?けどそんな事も聞けない俺が一番歯がゆかった。


 「おちび、俺は病み上がりなんだよ少しぐらい手加減しろってーの!」
練習後、頬を膨らませて抗議する先輩を部室内のみんなが笑顔で見守っていた。ナイトがいっぱいのお姫様か・・・・・・・やれやれ。
 「自業自得ってヤツっすよ。先輩がファンタ賭けるって言い出したんですからね。」
 「生意気。」
 「英二の負けだったんだからしょうがないよ。」
不二先輩が菊丸先輩の背後から肩を抱くように声かけてきた。その後ろには部長が着替え始めていた。
 「不二までおちびの味方するんだ。ブーブー。」
一人ブーイングを上げる菊丸先輩に苦笑する不二先輩は・・・。
 「味方も何もないでしょう。ねえ手塚。」
不二先輩が後ろに顔を向ける。部長は特にリアクションなし・・・・。
菊丸先輩は観念したのか財布を出す為に鞄を探っていた。しかし・・・・。
 「ああああああ、財布忘れた。おちびごめん!どうしよう・・・・・・・・・・・。」
先輩は俺の前にきて両手を拝むようにあわせると困った顔をして告げた。俺は先輩の困った顔も好きだけど利用しない手はないかな。
 「先輩、ファンタの代わりに俺のお願い一つ聞いてくれるって言うのはどうっすか?」
先輩は目を輝かせ頷こうとしたがそれを遮るように声がした。

 「俺が代わりにだそう。」

低い声で呟き、俺に小銭を手渡したのは部長だった。
 「いいよ、手塚!」
菊丸先輩は間髪いれずに否定の言葉を叫んでいた。
 「いいんだ。」
部長が何事もなかったかのように着替えに戻ると一瞬シンとした部室内は雑踏へと戻ったが・・・・・・・・・・。
 「手塚・・・・・・・・・・。」
不二先輩の顔が曇るのが見えてしまった。
あの話はやはり真実なんだ・・でもなんで菊丸先輩も不二先輩も部長なんだ。
 「ごめんおちび明日絶対財布持ってくるから待ってくれる?それと手塚これは返すありがとうね。」
菊丸先輩は早口に捲くし立てる。無理やり元気な声を上げはしゃいだ振りしているのがわかった。菊丸先輩はまだ確実に部長が好きで部長も菊丸先輩が好き。
 「俺もう帰ろう〜。じゃあねおちび。」
菊丸先輩は鞄を掴むとドアの方へ足早に一人で歩いて行った。俺は思わず先輩の腕を掴みこう言っていた・・・・。
 「先輩。ジュースの事なかったことにしますから送らせて下さい。」
 「おちび・・・・。ラッキーいいの?本当に?俺のほうが得してない?」
 「そうっすか?」
 「う〜ん。まあいいか帰ろう。」
 「ウッス。」


 帰り道先輩は黙り込んでいた。俺も会えて話し掛けなっかたことがなお落ち着かせたのかもしれない。でも不二先輩のこと言っただけでこんなに簡単に引き裂く事が出来るのだろうか?他人のために自分のことを犠牲に菊丸先輩ならやりかねないけど部長がそんな殊勝な性格をしているだろうか?
いくら部長でも平然と不二先輩と話すことはしないだろうと思うっていうことは・・・・部長は何も知らない?
菊丸先輩が別れを決意した本当の理由を部長は知らないのだろうか?
俺の推測どおりならまだ先輩たちは・・・・・・・。
 「先輩、俺忘れ物しました。だから・・・・・・。」
 「俺待ってようか?」
 「いえ先に・・・・・あ、15分後に公園でベンチにでも座っててください。」
 「わかった。行ってらっしゃい。」
 先輩はにっこり笑ってのんきにも手を振ってくれた。俺はその笑顔を胸に刻みつけ走り出した。


 「部長ジュース奢ってくれます?」
 「越前帰ったんじゃなかったのか?」
背後から突然現れた俺に部長が振り返り少なからず眉を動かした。そんな部長の言葉を綺麗に無視して自分の用件を切り出した。
 「手塚部長、菊丸先輩がどうして別れを切り出したかわかりますか?」
部長はメガネの奥で目を見開いたが押し黙ったままだった。
 「不二先輩。」
 「不二?」
やっぱり知らない・・・・・・・・・・・・。
 「不二先輩は菊丸先輩と同じ人を好きになったんです。」
 「なに?」
部長の顔色が変わった。部長の目に見えて明らかな変化、動揺は初めて見た。部長も人間だったんですねって変な感心をしてしまった。
 「菊丸先輩、公園にいます。そこで待ってますから・・・・。」
 「ありがとう、越前。」
そう告げると部長は俺を置いて部室から駆け出していった。と思ったのもつかの間引き返してきて・・・。
 「越前これはジュース代だ。」
部長は俺に小銭を渡しまた駆け出して行った。ホント律儀っすね。


   どうしたら卑怯者になれるのか?
   あの人が笑っていてくれるなら酷い嘘の一つも平気でつけるのに
   あの人が泣かないように情けない現実からブロックする事も出来るのに
   あの人にとって永遠に善意の人でありたい





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