恋が本気になるまで 14 |
運命の女神が微笑むときを見逃した 運命の女神なんかに何ができるんだ? 女神に祈りを捧げ 俺は唾吐きかけた 運命なんて決まりはない |
「部長。俺は真剣です。本気でエージ先輩のことが・・・・・・・・・・・・。」 すべて言う前に引き離された手。エージ先輩が部長の腕の中におさまる。 俺の中に黒い炎が燻る。ちりちりと限界という名の神経を焼き切る。 「部長!エージ先輩。」 純真な後輩の叫び。青ざめた顔。震える唇。演技なら正に完璧。 しかしこれは演技ではない。俺は本気でエージ先輩を・・・・・・・・・。 不二先輩の表情はない。 「手塚。・・・・・・・・・・・・・・・離してよ。」 にっこり笑って言うと英二先輩は素早く部長から離れ、さっと俺の腕にしがみ着いた。 「ごめんにゃ桃。手塚誤解したんだよ。別れたけど友達だから桃が無理やり俺に言い寄ってるように見えてそれで助けようっておもってくれたにゃ。 でも手塚、桃は別に無理やり俺に抱きついたわけじゃないから!安心してふざけてただけだもんv」 独特の猫の真似した口調で場を和ますように言うと俺のわきへピトッと寄り添ってまたにっこり微笑んだ。それは計算でも計画でもない天然な行動。 天性の天使。この人には人を和ませる天性がある。 凄いことだと思う。それは人間には真似する事が出来ない天使の所業。 嗚呼俺は、本当にこの人を愛しているんだな。 天使が飛びたってしまった部長はどうするのだろう? 俺は心底ゾクッとした背筋が凍りつくように冷や汗が滴り落ちる。 想像するだけ恐ろしい飛びたって行く天使の姿。 俺は部長に同情した。 こんなこと言えた義理じゃないことはわかってるけど心から同情した。天使が飛び立ってしまった部長に・・・・・・。 「すまなかった、桃城。」 「いいえ、部長。大丈夫っす。」 「驚いたよ。英二。」 「ごめんにゃ〜不二。」 部長は無言で俺を睨んでいた、多分意識はしていないのだろう。俺は素直な後輩を装う。 それぞれ表情は変わらないけど俺にはわかる。 部長が苦々しく思いながら俺たちを見つめている事。 不二先輩がその微笑の裏にどす黒い悲しみを背負っている事。 海堂が部室の外で歯軋りをして拳を握り締めている事。 唯一本心で微笑んでいるエージ先輩以外は皆それぞれ何かを抱えていることを・・・・・・・。 俺は全部知っていた。 「エージ先輩、今日のこと考えてください。」 帰り道、俺はエージ先輩を自転車の後ろに乗せて呟いた。 「も〜も〜、ごめんね・・・・・・・。もう少しやっぱり整理がつかないんだ。」 「待ってますから。」 結局俺もエージ先輩に取り込まれた一部、俺は俺のやり方でエージ先輩を愛していくんだ。 手にして繋ぎとめる日まで。 「苦しいんだ。」 「知ってます。」 「辛いんだ。」 「それも知ってます。」 「繋いだ手の温もりは今も手塚を求めてるんだ・・・・・・・。」 「・・・・・・・知ってます。でもいつかその手に俺の温もりを感じてください。」 自転車のスピードを上げていく、二人乗りしたまま上り坂にさしかかって行く。 「もーもー。よく聞こえない!」 「なんでもないっす。」 「えっ?」 「な・ん・で・もないっす!!」 「そう?もーもー、スピードを上げて!!」 「はい!」 「もっと早く。」 「はっっひい!!」 俺は情けない声を張り上げつつ立ちこぎにかえて力いっぱいこぐ。自転車が悲鳴をあげだす、そして俺の腿も悲鳴をあげる。部活後のこれはキツイ。 頂上まではあと少し。 「桃、ガンバ!」 「おっしゃあぁぁぁぁ。」 自転車が頂上を向かえ車輪の動きがスローになる。よろめく車体、そして下り坂。 「エージ先輩、掴まってて下さい。」 車輪が回る、俺の気持ちのように。 自転車が走る、俺の心のように。 おかしな二人の大疾走は下り坂で速度を上げ風をきり町の中を走り抜けた。 「もーもー!きもちー!!」 「ハイ、先輩!風が気持ちイッス!」 「桃・・・・・・あ・り・が・と!」 「なにがっすか?」 「なんでもな〜い。」 エージ先輩はそれっきり一言も話さなかった。俺も何も言わなかった。 無言のままただ二人は走り続けた。 家路に着くために。 |
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