恋が本気になるまで 10 |
俺には誰よりも傷つけたくない人がいた 誰よりも傷つけたくないのに誰よりも傷つけた人がいた 俺はその人の傷が癒えることを祈りながら 見守ることを選択した |
部活が表面上は滞りなく過ぎていく。誰もが何かをひた隠し視線を彷徨わせて探りあうなか一際目に付く存在・・・・・菊丸英二。 「やったね!」 第一コートから景気の善い声が上がる。 声の主は見るまでもなく最近復活したばかりの菊丸英二のものだ。 「もーもー。賭けは俺の勝ちだね、ブイv」 英二は胸の前で大きくピースサインを作るとにっこり不適に微笑んだ。そんな姿もやはり無邪気で俺の目に焼き付く。 君だけを見守ると決めてたのに 君だけの幸せを願うと誓ったのに 何時の間にかすれ違った思いは元には戻らなくなっていた。 他の人と幸せになろうとしている英二を未練がましく追い掛けそうになったこともあった。 今ある穏やかな日々に希望を見いだせず幻想に縋ろうとしたのだ。しかし所詮そんな物は幻でしかなく真に俺を癒してくれるものではなかった。そろそろ現実に戻るころなのだろう。 「乾・・・。話したいことがあるんだけど。今日って空いてる?」 コート外の人目につかない所で作業を行っていた俺にそっと近づいてきた英二が恐る恐るといった具合に話し掛けてきた。 俺は動揺していたがそれをおくびにも出さずに頷き答えを返した。 「急ぎ?今日は人と会う約束をしているから明日じゃ駄目?」 「い、いい!全然気にしないで、こっちこそ急にごめん。ホント今度でいいから。」 英二は慌てて手を振ると踵を返して駆けて行こうとしたその時・・・・。 俺は咄嗟に手を伸ばして英二の腕を掴んでしまった。 この手が離れてしまったら英二は・・・・・・・・・。 そう考えたら体が勝手に動いていた。 「い、いぬい?」 英二の戸惑ったような声が聞こえる。 「英二、覚えている。あのときの言葉・・・・・・・・・。」 「あの時・・・・・・・・?」 「『誰が誰を好きでも知らない振りをする。それが礼儀だよ』、『誰が誰を好きになるのにも理由がない』って。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 「どうして手塚と別れたの?そんなこと不二は望んでいなかったよ。」 「分からないよ!乾には分かるわけない!!人を本当に好きになることのできない乾に俺の気持ちなんて分かるわけないにゃ!!!!!」 英二は叫び少し目を伏せたがそのまま俺の腕を振り切って翔けて行った。 英二へ告げた言葉、俺は一体誰に向けて言ったのか・・・・・・・・・・。 不二は望んでいた。手塚と英二が終わることを・・・・・。 そして俺も望んでいた英二と手塚が終わることを・・・・・・。 望んでいた結果がこんなものだとは俺も不二も考えなかっただろうけど・・・・・・・。 本気で好きになったのは君だけだよ。 「不二。」 「なに、乾?」 「英二を泣かせないでほしい。」 「何で乾がそんなことを・・・・・・・・・。」 「英二の幸せを願っているから。」 俺の言葉に不二が一滴涙をこぼした。 「どうして二年のとき英二を手放したの?あの時二人は両思いだったのに・・・何故?」 不二の中に渦巻く感情が俺にも良くわかったが、俺はあえて無視をした。 「過去は戻らない。今は英二の幸せだけを願っているんだそれがどんな形だったとしてもね。」 「それで乾は満足なの?今でも乾は・・・・・。」 不二が射るような視線で俺に尋ねた。 「それが満足なんだ。」 俺は微笑み答えた。不二はそれ以上何も言わなかった。 レギュラーしかいない部室。 「英二。昨日のこと冗談だから。ねぇ手塚?」 不二が着替えをしていた英二に向かってにっこり微笑み告げた。その時俺は不二と目が合ったが俺は心の中で不二に頷いた。 これでいい。これで・・・・・・・・・・。 「不二・・・・・・・・・・。」 「今日いっしょに帰ろうか。由美子姉さんがケーキを焼いたんだ。英二も食べて行きなよ。」 「うん!」 不二の笑顔にやっと英二は表情を明るくした。 「偽善っすよ。あんなの唯の偽善っす。」 桃城が俺にだけ聞こえるように囁いた。 「そうかな。あれが一番だと思うよ。」 「一度壊れかけた絆は脆いものですよね。乾先輩。」 「何がいいたいんだい?」 「壊してみたいんですよ。自虐的で偽善的なエージ先輩達を壊してみたいんですよ。」 「桃城は羨ましいのか?」 「なにを!」 「手塚のことが羨ましいんじゃないか?」 「乾先輩・・・・・・・・・・。」 複雑な表情で睨む桃城を無視して鞄を掴むと俺は部室を後にする。 所詮どんなに人は言いつくろっても心の奥底の感情を無視することはできない。 それが人間の性だから。 「・・・・・・・・・・・俺も羨ましいと思ってるよ。桃城。」 俺は誰もいない校庭で一人呟いた。 |
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いい奴なのか悪い奴なのか分からない乾の一人称。 結局は英二のことをまだ愛しているのよ〜んってことでしょう (それ言っちゃあおしまいでしょう〜) (ぁぁおしまいさ)←一人突っ込み? ようは何がいいたい。自分のことを好きになってくれなくても 相手が幸せならオールOKみたいな感じですよね。 つまりはこのシリーズはそれぞれが それぞれの究極の自虐物語だなんと思ってる今日この頃でした。 以上。 |
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