恋が本気になるまで 1


それは黙殺された心
何時しか焦げ付き 燃え尽きた

心に残るしこりさえ
何時しか焦げ付き 燃え尽きる

灰にもならぬ心なら せめて風になればいいのに



 「あの人が笑ってくれないと辛い。」
お前はそう言って誰よりも痛々しげにあの人を見つめる。
俺だって同じだ。お前が辛そうなのは見てられないんだよ。
あの人が誰を見てるかなんて誰だってわかる。
わかってないのはあのバカップルぐらいだ。
そしてそれでも諦められずあの人は未練たらしくいつまでもバカップルを見つめる。
そんなの俺には関係ないからどうだっていいけどでもそれによってお前が辛いなら俺は許せない。
ああ、許せないね。
バッカプルの片割れが好きなあの人、あの人を見つめるお前、そしてお前の為なら何でも出来てしまう俺。
このメビウスの輪で回り続ける俺たち一番哀れなのは誰なのか・・・・。


 「桃。何してんのさ。」
突如入ってきたエージ先輩は部室にいる俺をめざとく見つけ話し掛けてきた。俺は読んでいた月刊プロテニスを持ち上げエージ先輩に見せた。
 「チッス、エージ先輩。これ読んでたんですよ。」
 「ああ、それ今日でたヤツ。いつ買ったの!」
先輩は俺も見たかったんだよね〜と言って近づき覗き込んできた。俺はチョット得意げに言い切った。
 「まさやんが昼休み抜け出して買ってきたんですよ。それを俺が勝手に借りたッス。」
 「それって無断拝借!」
 「そうとも言いますね。」
エージ先輩の突っ込みに俺は悪びれた風もなく楽しげに笑った。エージ先輩はフ〜ンと呟きながら眺めていたが暫らくして飽きたのか俺に話し掛けてきた。
 「桃!早く着替えてさちょっと相手してよ。」
 「いいッスヨ。」


 「エージ先輩。手塚部長とはうまくいってるんですか。」
部室には俺とエージ先輩しかいなかった。
俺は今日ホント言うとエージ先輩を待ち伏せていた。どうしても話したいことがあったからだ。
 「へ・・・・?」
俺の言葉にエージ先輩の動きが止まった。
 「桃・・・・・突然何いうんだよ。照れるじゃんか。」
エージ先輩は固まった状態からそのままユデダコ状態に変化し、突然声も高らかに俺の背中をばしばしたたき始めた。照れてるのだろう。
 「無邪気ッすね。」
それがエージ先輩のいいところだとも思う。だけどその日の俺は心がささくれ立っていたんだ。

 「その無邪気さが誰かを傷つけていたなんて思いもしないでしょうね。」

 「なんだよ。何がいいたいんだよ。桃。」
俺の言い方が気に入らなかったのかエージ先輩が不機嫌そうに俺を見据える。
 「別に・・なんでもないッス・・・。」
 「気になるじゃんか?」
俺の言葉に食い下がるエージ先輩。俺は心の中で残酷な笑いをしていた。
 「・・・・・・・手塚部長モテますよね。」
 「女の子に?」
 「それもそうですけど。」
 「男とかも?」
俺もかと冗談のように言うエージ先輩。俺の心が軋みだすのを感じた。
 「親友の好きな人にも気付かない人っているんですね。」
 「ムッ。桃さっきからなんなんだよ。親友って大石のこと。」
今度は本当に頭にきたのかエージ先輩はうっすら怒気をはらんだ目付になった。
 「違いますよ。大石副部長のことじゃないッスヨ。」
 「じゃあ誰だよ。不二?」
 「そう不二先輩。」
 「不二が何だよ。」
 「不二先輩の好きな人知ってますか?エージ先輩。」
 「不二?誰だろう。」
 「気付いてなかったんですね。」
 「桃は知ってるの?不二に聞いたの?」
エージ先輩の顔が真剣なものへと変わっていった。どうして?エージ先輩の瞳が不安そう訴えかけていた。
俺はとんでもないことをしようとしている。でも動き出した時を止めることは出来なかった。
 俺は静かにエージ先輩へ決定打を突きつけた。

 「不二先輩、手塚部長のことが好きなんですよ。」

 「・・・・??!・・・・・。」
 「エージ先輩。」
俺は笑いをかみ殺すようにエージ先輩に声をかけた。
こんなにうろたえたエージ先輩はついぞみた事はない。
エージ先輩は正に血の気が引き顔色が真っ青になっていた。
 「まさか・・・。だって不二は・・・・・・・・。」
俺は自分の中にこんな残酷な面があるとは思っても見なかった。
それも今まで親しく付き合ってきた部の先輩にこんな事実をさも当然のように突きつけるなんて・・・。
お前の為ならこんなにも簡単に人を切り捨てることが出来る俺。
 「間違いありませんよ。不二先輩、俺が1年の時から手塚部長だけを見てましたから・・・・。」
オレハワラッテエージセンパイ二トドメヲサシタ・・・・・・・・・・・。

 「もも・・・・俺。・・・・・・俺・・・どうしよう。」

 「エージ先輩。」
エージ先輩は見るも無残なぐらい顔色がなくなっていた。紙のように白く。
俺は矛盾しているが心配になってきた。このまま倒れてしまいそうなほど白く失われた顔色。
 「エージ先輩。大丈夫ッスカ?」
 「う、うん。だ大丈夫にゃ!」
ハッとしたように俺に眼を向けるとエージ先輩は無理して笑った。
元気な大きな声を上げ俺に心配させまいとハシャギ、ラケットを取り出すと「さあ練習練習」と言って部室の外へ飛び出した。


 「ねえ桃、英二の様子なにか変じゃない?」
さすがというべきか。不二先輩はエージ先輩の様子がおかしいのに気付き俺に声をかけてきた。
 「そうっすか。別にいつもと変わらない様に見えますけど・・・・。」
 「そう・・・・。」

不二先輩は感がいいから気を付けないとな。
でもこれも結果的には不二先輩のためになることなんですよ。感謝してくださいね。






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