月の出ない夜


今まで急ぎ足で歩いてきた
(本当の景色などみる余裕もなく)

今まで急ぎ足で通り過ぎていた
(必要なものなど何もないと思っていたから)

今までの人生に疑問を感じた
(それが始まりの合図―――)



  好きだと告げるあの瞳がいつからか無視できなくなった。
  好きだと告げるあの仕草が心に焼き付けられた。
  最初に好きになったのはアイツ、でもはまったのはオレ――。


 神が去っていくのをいつまでも見つめる藤真。月が藤真を照らし出しその瞳には神の残像がいつまでも映し出されていた。
今このときを一生、記憶しておくかのように繰り返し繰り返し・・・・・。


藤真は明日、日本を発つ――――。


藤真には自分がいかに卑怯な事をしているかわかっていた。神が明日この事実を知ったら激怒するだろうことは容易に想像がつくだが他に選択肢が残されていなかった。

  卑怯な別れ方、さよならも言わせない。
  いや、『聞きたくなかった』あいつの口からだけは・・・・・・・・・それが本音。
  勇気がない、意気地がない、思いやりがない、最低なオレ。
  『相手が悪かった』そんな一言で片付けた。

 「牧に殴られるかもな・・・・・・大事な後輩を泣かせたって・・・・・・・・・。」
藤真は唇をかみ締め呟くと瞳から一滴の涙がこぼれた。その滴を拭うことなく自分の心臓を掴むと月を仰ぎ見み話し掛けた。
 「ここが痛いんだ・・・・・・・・・・。この痛みが消えないうちにオレをアメリカへ連れて行ってくれ。」

その日藤真は牧の下を訪れると神にさよならを告げることなく去ることを話した。
牧は静かに頷くとそっと藤真を抱き寄せ心の中であることを考えていた。藤真は牧の胸で声を殺し泣いた。


 翌日海南大。
講義が突然休校になりバスケ部へ顔をだした神にショッキングな事実が伝えられた。
 「藤真さんがもうアメリカに行ってしまった?・・・・・・・・・・・?そんなこと・・・・・・・。」
牧の口から聞かされた信じられない現実がまだ頭の中で消化されず何をいっていいのかわからない神は思わず絶句してしまった。
 「藤真が昨日現れて神、お前には飛行機が出立してから話して欲しいといわれた。」
牧の言葉が無情に響く。
神は飛行機がもう行ってしまっているとわかっていても成田まで駆け出して行きたい衝動に駆られ無意識に12時を指す文字盤を見つめていた。
 「藤真さんは今日何時の飛行機に乗るって言ってたんですか?」
俯きぼんやりと聞く神に牧は・・・・・・・。
 「そうだな確か2時の飛行機で・・・・・・・・。」
 「えっ・・・・・・今はじゅう・・・?」
神は驚き顔を上げると牧と目が合った。
 「神、オレの時計は壊れたみたいだ。針が3時で止まってるからってきり3時かと思って言ってしまった。」
牧はわざとらしい大声に芝居がかった言い方で神に告げるとにやりと笑って見せた。 一瞬面食らってポカンとしてしまった神は我に帰ると慌てて駆けだした。

 「牧さん!ありがとうございます。」

 「別に礼を言われるような事をした覚えはないが?」
後に残された牧は不適に微笑みそう呟いた。


 「間に合いますよね・・・・・・・・。藤真さん待ってて下さい。」
神は呟き校門を出たところでタクシーを拾うとそのまま成田へ直行した。

  どうか今日だけは渋滞に引っかかりませんように・・・・・・。
  間に合って絶対に捕まえて見せる貴方を・・・・・。
  だから俺から逃げないで下さい。
  俺も・・・もう誤魔化したり逃げたりしませんから貴方も逃げないで下さい。
 
 「『成田まで急いでお願いします』か、お見送りかい?」
 「そうです。」
タクシーの運転手さんの問に神は答えるのも煩わしいと思ったが短く返答した。
 「ひょっとして彼女?」
運転手さんの言葉を聞くとなしに聞いていた神は流れる景色の一点だけを見つめると呟いた。
 「・・・・・・大事な人なんです。」
 「・・・・・・・・・・・・・。」
 「このまま別れたくないんです。」
見ず知らずの他人なのに本心がこぼれだす。いや他人だからこそ真実を語る事が出来ることがある。今が神にとってその時だった。
 「何時の飛行機だ。兄さん。」
 「・・・・・・・・2時です。」

沈黙の落ちる車内で運転手さんが突如法廷速度を大幅に無視して車のスピードをあげた。
 「舌噛みたくなきゃしゃべるなよにいさん。このまま成田まで突っ走るからな。」
 「・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・。」
運転手さんは無線機をおもむろに掴むとなにやら話し出した。
 「こちら○▲号車、高速×号線を成田方面へ急行中。緊急事態コード77により至急応援を要請する。」
 『こちら本部了解』
突然訳のわからない暗号で通信する運転手さんに神は面食らっていた。
 「???」
なおもスピードの上がるタクシー。しかしなんと行く手の電光掲示板にこの先渋滞の文字が・・・・・・・・・・・・・・・。
 「そんな不安そうな顔しなさんな悪いようにはしないぜにいさん。俺に任せときな。」
 「・・・・・・・・・・・・。」
不安になるなというほうが無理な状況でいったい何をする気なのか今ひとつわからない神は一か八か運転手さんの言うことを信じることにした。
 「まだか・・・。」
 「???」
 「やっときやがった。良かったなにいさん!」
 「・・・・・・・!?」
渋滞に引っかかり止まっていたタクシーの横へやってきたのはバイクだった。
 「これは・・・・・・・・・。」
 「にいさん早く乗りな。」
 「だけど・・・・・それにお金は。」
 「そんなこといいから早く行くんだ。会いたいんだろ『大事な人』に。」
タクシーの運転手さんはそう怒鳴るように神に告げるとタクシーのメーターを切ってしまった。


 「にいさん捕まってくれよ後の警察振り切るために飛ばすからな。振り落とされるなよ。」
 「はい。」


はたして神は無事間に合い藤真に会う事が出来るのか?






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