月の見える今夜


欲しいものがあるといわれた
欲しがる気持ちが溢れると困るので

餌を与えた

欲しいものだけ与えるのはフェアじゃないけど
人の刻にはキリがあるから・・・・・・・・



 「好きなんです・・・・・・・・。」
突然の話題展開に貴方の瞳は特に変化することなく先を促した「誰が?」と・・・・・・・。
 「藤真さんが好きなんです。」
貴方は黙り込んでしまい、俺は見つめ返した。
闇の中に俺と貴方のシルエットが浮かび上がり月が照らし出した。

 今夜は満月。

 「神、ごめんな。今は考えられないんだ。」
貴方がそう言うだろうことは予めわかっていました。
それでも今この月を共に見ていたら告げづにはいられなかったんです。
いつだったか貴方がくれた言葉が嬉しかったから・・・・・・・・。


 あれから一年たったが俺と貴方との関係はあまり変わらず過ぎていた。
そんなある日のことだった。
 「すいません。」
 「どうして謝るんだ?」
藤真さんは謝った事が気に障ったのか少し眉間に皺を寄せた。そして言葉を続けた。
 「神は人に気を使いすぎる。もっと我儘いっていいんだぞ。」
 「貴方には言ってもいいんですか?」
 「いいぞ何でも。」
 「じゃあ俺のこと好きになってください。」

 今夜も満月。

神秘的な霞みがかかり、朧月夜となる今夜。
俺の気も大きくなったみたいです・・・・・・・。
 「すいません。忘れてください。」
 「わかった。」
それは忘れてくれるという事ですか?でもそんなにあっさり忘れてくれなくてもいいんですよ、藤真さん。
本当のこというと期待してました。
あの後も変わることなく接してくれた貴方があまりにも自然だったから、もしかしたら俺とのこと少しは考えてくれるようになったのかと甘い期待をしていました。
今宵の月、朧月夜の満月を選んだ事は偶然ではないんです。

 「神は忘れないでいてくれるんだろう?」
今日の事・・・と続け空を見上げながら呟く貴方。
 「ええ・・・・・・・・・忘れません。」
俺もつられ見上げた空。
 「でも俺は忘れていいだな。」
 「・・・・・・・・はい。」
 「神、これから言う事も憶えておいてくれないか?」
まっすぐ向き合う藤真さんの瞳がいま見上げていた月のようだと思ったのは俺の目の錯覚ではないですよね?
 「何をです?」


 「俺が神を好きだってこと。」


 「・・・・・・なにをです?」
俺は一瞬何を言われたのか解らず同じ言葉を繰り返していた。
 「何って?俺も神が好きみたいってこと?」
 「何でです?」
 「さっきから何々って他の言葉はないのか神?」
 「俺の事を好き?・・あ、貴方が?」
 「好きだ、神。」
信じられない事を言われ顔が赤くなるのを感じた。しかし新たにわいた疑問を口にせずに入られなかった。
 「藤真さん。それ言わないつもりだったんですか?もし俺が告白しなかったら言わないつもりだったんですか?」
 「うん、言わないつもりだった。・・・・・・・・・・・・本当は一生いわないでこの秘密、墓まで持っていこうと思ってた。」
 藤真さんのすがすがしいまでの笑顔に俺は一瞬見惚れた。
 「そんなこと・・・・・・・・・・。」
 「だから忘れないでくれ神は・・・・・、俺は忘れるから・・・。」


 「馬鹿なこと言わないで下さい!」


俺が激怒したところなどついぞ・・それどころか感情を激変させたところなどお目にかかった事のない藤真さんは珍しいものでも見るように苦笑した。
 「馬鹿な事か?」
 「馬鹿げてます。はいそうですかって納得できるとでも?」
俺には怒りというよりは悲しみが滲んでいたのだろう藤真さんは・・・・・・・・・。
 「神は相手が悪かったんだよ。俺はアメリカに行くことにしたんだ。」
 「藤真さん・・・・・・・・・・・・。」 
俺の問いただすような瞳に促され藤真さんは先を続けた。
 「アメリカに行くことは高校卒業した時点で決まっていたんだ。でもギリギリまで伸ばしていた可能な限り神といたかったから・・・・・・・・。」
 「あの話ですか?」
 「そうだ牧から聞いたのか?」
 「はい・・・・、ずっと前から海南にはその噂があったので・・・・・・・・・。」
 「そうか。」
 「牧はもっと早くに行くべきだと言ってくれた。でも俺をここへ留めたのはお前への気持ちだった。こんなこと言ってすぐ別れなくちゃいけないのなら言うべきじゃないってそう思ってはいたんだけど・・。」
二人の視線が絡み合いそれと共に思考も平行線をたどっていた。
 「俺が引き止めていたんですか。俺が貴方の邪魔をしていたんですか?」
 「違うそうじゃない!神・・・・・・・・。」
藤真さんは慌てて俺の腕を取ろうとしたが一瞬遅かった。俺は藤真さんを避けるように身を翻すと背を向けて歩き始めた。
 「神!」
 「すいません藤真さん。今日は帰ります。」


 「神・・・・・・・・・・・。」
 藤真は神の背の上に見える月に目をやると一つため息をついた。


 月が人の罪を許してくれるのを待つのは
 神が俺の罪を許してくれるのを待つより
 遙に長いのだろうか・・・・・・・・






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