〜2〜 捕らえた影 |
どうか神様、 世界に終わりがくる日まで 俺に意味ある人生を下さい |
「集まれ。」 駆け足でわらわらと集まってくる部員たちに監督は告げた。 「来週からの大会のスタメンを発表する。DFは―――。」 次々と呼ばれるいつものメンバーに部員一同も特に疑問なく聞いていた。 ところが・・・。 「――は仙道スタメンでいく。」 監督の願ってもない言葉に仙道は静かに頷く、当然回りはざわついていたがそんなものは気にも留めず牧も無表情でいた。 「他は―――。」 監督の話は続いていたが仙道も牧もまるで聞こえてこなかった。 影が伸びる構内を一歩一歩踏みしめて歩いているといつの間にか正門まで辿り着いていた。 そこでふと牧はいつも疑問に思っていることが合ったことを思い出した。 何故いつも藤真は構内にではなく正門で待っているのだろうか? 高校じゃあるまいし同じような年代の学生が闊歩してる大学なのだから一人や二人見知らぬ青年が歩いていたとしても誰も気にも止めない。 しかも正門での待ち合わせはわかりにくいので普通の学生はしないだろう。 そうこう考えていたら正門を通り抜けていた。 「牧。」 正門を抜けた木の傍に立つ一つの影。 昨日の埋め合わせのために待ち伏せをしていた藤真に牧は渋い顔をしてみせた。タイミングが悪かったのだ。 今日だけは一人で・・いやせめて藤真とだけは会いたくなかった牧は知らず知らず険しい顔となっていた。 「藤真・・・。」 「牧、どうした?」 顔色は悪く佇む牧に藤真は心配そうに声をかけたが牧はなんでもないと首を振っただけだった。 ―――思いのほかショックを受けているのだろうか?例えそうだとしてもこんな姿、藤真にだけは見せたくない・・・。 「牧?」 藤真は歩を止め牧と向かい合ったが牧は視線を合わせてはくれない。 「藤真・・・すまないが、今日は。」 目も合わせないまま牧は一人背を向け歩き出した。藤真は追いかける事も出来ず立ちすくんでしまった。 「お!仙道、まだ残ってたんだな。メンバーたんないんだけどよS女との合コン行かないか。」 シャワー室から出てきた仙道を捕まえたのは同講義を取ってる奴で初めて会ったときから妙になれなれしい奴だった。 「S女?」 「おう、S女と言えば滅多に合コンできないお嬢様大学だぜ。俺の友達の姉ちゃんがS女なんだよ。そのコネ。」 胸張って笑顔で言うそいつはあんまり好きではないが昨日の憂さを晴らすには調度良いと思い仙道はああと返事した。 昨日の憂さ・・・。 藤真との会話が一日中耳について離れない。 『ひょっとして恋人ですか』 あの一言は冗談に乗せた仙道の探りだった。まさか本当にいるなどと思いもせずに軽く聞いたのだ。 笑顔で返された返事に勝手にダメージを受けてれば世話ない。 講義も馬に念仏で部活中も集中力が泣いているというほどに欠片もなくなっていた。 「仙道。○●って店知ってるか?」 「ああ。」 歩きながらも黙る事のないそいつに少し嫌気がさしてきた仙道は歩調を段々早めていった。 騒ぎに乗じて一時でも忘れられるならと願いながら正門のところまできた仙道にある人が飛び込んできた。 「藤真さん。」 ポツリと呟いて立ち止まると数メートル先の藤真も気づいたようで呆然とした面持ちで呟いた。 「仙道。」 ここで会えたことに複雑な思いを抱きながら仙道は藤真に笑顔で言った。 「また恋人と待ち合わせですか?」 すると苦笑した藤真がため息と共に言葉を吐き出した。 「いや、昨日の埋め合わせのつもりできたけど今日は振られたみたいだ。」 言葉とは時に残酷で時に人を惑わせる。今の藤真の言葉もそうで仙道には明らかに希望という芽が芽生えてしまった。 「藤真さん、これから飲みに行きません。」 「付き合ってくれるか?」 「ちょ、っと仙道・・・合コンは・・・・・。」 藤真の出現によりすっかり無視されていたそいつは慌てて仙道を押し留めたが仙道は軽く断りを入れて藤真に向き直って歩き出した。 その後合コン男を置き去りにし仙道と藤真の二人は酒その他つまみを買い大学近くの仙道のアパートで飲み始めた。 大分酒も進んだところで藤真がそう言えばと話し出した。 「そう言えば仙道、よかったのか?なんか約束が合ったみたいだけど。」 「いいんですよ。合コンの頭数そろえに借り出されるところだったんですからかえって藤真さんのお陰で助かりました。」 「そうか。」 一言呟くと藤真はやっと笑みを見せた。 「藤真さんこそ恋人と喧嘩ですか?」 仙道は何気なく聞いてみた。 それはもうごく自然なさり気なさを装って・・・。 「喧嘩って言うのかな?」 今一納得しきれていないように呟く藤真に仙道は至ってにこやかに言う。 「どれぐらいの付き合いですか?」 仙道にとっては期間のことについての質問だった。しかし藤真にとっては深さのことを連想させ、牧とギクシャクした関係の発端となった禁句的な質問であった。 「どれぐらいって・・・、まだキスぐらいしか・・・・。」 「へっ?」 「え?・・・ぁっ・・。」 驚きの呟きをもらした仙道に藤真は自分が誤解していた事に気づき赤面して小さく口の中だけで声を上げた。 思わず藤真の唇に視線がいってしまい仙道も妙な照れを感じおどけてみた。 「長さのことだったんですけど。」 「そうだよな・えっと確か・・・付き合い出したのはホンの数ヶ月前だ。」 「まだ。」 「ああ、気になりだしたのは三年前からだけどお互い何故か避けてて去年頃からちょくちょくあってるうちに・・。」 大分酔いが回ったのか段々饒舌になっていく藤真は馴れ初めまで詳しく話してくれる。だがそれは仙道にとってある意味拷問だった。 「その・・・仙道はやっぱり多くの人と付き合ったことがあるんだろう。」 「へ?」 仙道は思わず間の抜けた返事を返してしまった。仙道にとってその手の質問は友人からもやっかみ半分でよく聞かれていた。 どうも本人の意思とは反して女ったらしというレッテルが貼られているみたいである。 まぁ事実遊んでいた時期も確かにあったのだが、今となっては目の前の人のみという意外と一途(?)な仙道だった。 「踏ん切りっていうのか思いっきりってのがつかなくて・・キス以上に踏み出せないんだ。」 当の仙道としてはそんなことを藤真に相談されても困ってしまう。それだけ誰よりも藤真にだけは相談されたくないことだったのだ。 しかし酔った上での口上ということで藤真の相談はやむ気配もない。 「相手は望んでるんだが、俺が悪いんだ。」 いつしか沈んだ表情で呟く藤真に仙道はある衝動に襲われた。 「それなら俺と実践してみますか?」 |
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