3〜実践編〜


終わりが来る事に恐れを抱き
本質を見落としていた

今は何故の言葉だけが去来する




 「実践?」
 キョトントしている藤真に仙道はにっこりと笑顔で頷き続けた。
 「雰囲気の実践ですよ。自然とそういう流れに持っていければ途中で戸惑いも感じることなく突き進めるってと思うんです。いいこと教えてあげますからちょっと耳貸してください。」
 仙道は言い終わるか終わらないかの内に顔を至近距離までに近づけて直接耳元に話し掛けた。
 「どうです。これならさり気なく耳元に近づくことが出来ますよ。」
 藤真はコクコクと頷きながらも物凄く近くで触れる仙道の吐息に動悸を抑えることが出来ない。
 「その先はまず他愛もないことで繋ぎます。」
 「ああ。」
 いつしか自分のペースに嵌り素直に講義を受ける藤真に仙道は苦笑し心の中の邪な気持ちが浅ましく思えた。
 耳元近くからほのかに香る藤真自身の香りにふらついて花に吸い寄せられるミツバチのように仙道は自らの自制心を簡単に捨てた。
 そのまま吸い寄せられるように首筋に唇を落とすと藤真もビクッと震え身体が斜めに崩れていく。
 仙道に口付けられたところからピリッと痺れが伝わり藤真は今までに感じたこともないくすぐったさが背中を駆け抜けた。そっと離すと藤真は呆然とし仙道を見つめてしまった。
 すると仙道が苦笑すると藤真の手を取っておこし、告げた。
 「ここまでにしましょう。」
 「えっ?」
 「この先はご自分で実践して見てください。それにしても藤真さんも流されやすいですね〜。」
 「ば、ばか!・・・お前がたらしなだけだ!!」
 真っ赤になって反論する藤真に仙道は軽く笑っただけだった。

 この時、冗談にして仙道が押し込めた欲望は形となって藤真の首筋に色づいていた。そのことに藤真は気づいていなかった。


 あれから数時間飲みっぱなしの二人は・・・・。
 「リベンジ!」
 「その意気ですよ藤真さん。藤真さんなら落とせないひとなんていないでしょう。」
 「オウ!」
 すっかり酔った藤真は仙道の家でかなり騒いでいた。
 「あれ、もうないや〜。すいません、藤真さん。酒が切れたみたいなんでちょっと買ってきますね。」
 すぐ下がコンビニという好条件に釣られて借りたこの部屋を今日ほど感謝した日はない。しかも酒の売ってるコンビニだ。
 仙道はひとっ走り下まで買いにいってすぐさま帰ってきたのだが・・・。
 「買ってきましたって・・・寝てる・・・・。」
 こんな時、人は異様に寂しく感じるもので今の仙道もそうである。
 妙な脱力感を振り払い藤真の傍にしゃがみこんだ。
 「風邪ひきますよ、藤真さん。」
 そういうと起こさないようにそっと抱き上げてベットまで運んだ。
 ふわりと舞う香りが仙道の鼻孔をくすぐる。
 今日感じた色々な感覚が一気に蘇り顔が自然と緩む、本当ならあのまま突き進んで藤真を手にと思わないでもなかった仙道だが実際状況的にそれも可能だったろう。
 それで手に入ったとしても身体的なもので心は伴わない。藤真の身体だけが欲しいのではない(いやそれも欲しいが・・・)。

 「本気なんですよ。今更、笑えるけど貴方に本気なんです。」

 泣いていいのか笑っていいのかよくわからない表情でそう呟くと意識のない藤真を下ろした。
 触れるだけの口付けを落として・・・。
 泣かせてきた女なんてそれこそ数知れず、恋愛をしてる間隔なんてまるでなかった。ただの暇つぶし、未練も後腐れもない付き合い。
 最低の男だったと自身でも思っている。
 今ごろになって本気の恋をしたといっても虫が良すぎるだろうか?

 そんな考えを抱きつつも今だけはこの規則正しい寝息を立てる人を見つめていたかった仙道だった。



 「・・・・?」
 見覚えのない天井と記憶のない頭を抱え藤真は目覚めた。首を横にするとそこには見覚えのある丸い背中があった。
 「・・・・。」
 段々思い出した藤真はそれが誰かわかって起こそうかどうしようか迷った。
 すると目の前の背中がぐるっと反転すし藤真の目の前で停止した。
 「オッ・・・・・・・・・。」
 おわっっと叫びを上げそうになるのを慌てて押し留めた藤真は仙道の寝顔を眺めていた。すると昨日の“実践”を思い出し、一人赤面して・・・。
 「な、何考えてんだ?!」
 頭を振って振り払うと物凄い頭痛が襲ってきた。
 「いた〜〜〜〜〜〜〜〜。」
 「うっ?・・藤真さん・・・?」
 眠たそうに目を開けた仙道に藤真は頭を押さえて言った。
 「すまない・・起こしたか・・・・。」
 「いえ、それより二日酔いですよそれ・・・。今なにか薬出しますね。」
 「わるいけど・・頼む。」
 ククッと忍び笑いして薬箱を探す仙道に藤真は少しだけ苦笑して起き上がった。
 「今日は休みじゃないですよね。なにか食べれますか?」
 「いいや、・・・とても入らないから・・・・。」
 「大丈夫ですか?」
 「あんまり、仙道はどうなんだ?アレだけ飲んでピンピンしてるな。」
 「どうも、分解酵素が良いみたいで・・・。」
 にっこりと告げる仙道に藤真は苦笑いして言った。
 「はは、仙道が言うと冗談に聞こえない。」


 その日、藤真は仙道と別れた後、大学には行かず自主休校した。
 牧へのリベンジ、今夜に備えて・・・。





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