駆け引き上手 3


今でも俺は夢でうなされる
藤真ことを考えると今でも胸が苦しくなる
あの時声をかけることのできなかった俺
一年前にもあったデジャブー
二年前の俺たちが今も鮮やかに蘇える



 「双璧そう呼ばれることで俺はおまえと共にいる。そこに立っていると実感できたんだ。」

 海南メンバーはかつてないほど集中し名残惜しそうに練習を終え藤真に別れを告げ去っていった。海南監督高頭がこれからも藤真に練習に来てもらおうと本気で思ったかどうかは謎である。
残された藤真と牧は1on1をヒトシキリしたところで藤真は牧に背を向けポツンと呟きはじめた。
 「この間の湘北戦で俺は本当にお前と共にいることのできる存在なのか初めて疑問に思った。お前と対等でいない俺なんて意味があるのか・・・。」
藤真の呟きを聞きながら牧はどうしようもない焦燥感に駆られていた自分を思い出した。
 「湘北戦見ていた。あんなに近くに居たのにお前がとても遠くに感じた。」
牧は言い終わると目を上げ藤真と向き合った。藤真は牧を見つめ牧もまた藤真を見つめていた。
 「積もり積もって身動きできなくて苦しくてこんなの初めてだった。おいていかれそうで不安になった。俺は大学でも牧の背中は見たくない!横に居たいんだ。そしてもっと高みへだって・・・。」
藤真の悲痛な叫びにも似た独白を牧は静かに見つめていた。何もできずかける言葉すらわからなかった自分もまた情けなく、藤真が立ち直った時においていかれるのも自分だと牧は思っていたからだ。


 「なんか、おかしいよな。牧とこんな話をすることになるなんて思ってもなかった。少しすっきりしたし、牧も練習の後でお疲れのようだからそろそろ帰るわ。」
その後もひとしきり話た藤真は先ほどの緊迫した空気を完全に払拭するかのごとく努めて明るく言った。
藤真の発言により取り留めのない言葉を交わしながら後かたずけを始めた二人は物の十分もしないうちに後かたずけを終えた。
後かたずけをし体育館を出て廊下を行こうとする藤真に牧は体育館のカギを閉めながら声かけた。
 「藤真なんか食べてくか。」
藤真はそれいいなと牧に相槌をうとうとした時、突如後ろから大声で言葉を奪われた。
 「いいッスね。俺、腹ぺコなんッスよv牧さん!もちろん牧さんのおごりっすよね神さん。」
 「そうだね。」
立っていたのは海南の漫才コンビ(?)清田と神だった。
 「お前たちなんでここにいるんだ。」
 「・・・・・海南っていつもこんなに仲いいのか?牧?」
居る筈のない者達の出現に驚きの声を上げる牧。呆れ交じりの藤真。
 「そうですよ、藤真さん。海南は仲いんです。ねえ神さん。」
 「そうかな。ノブが牧さんに懐いてるだけじゃない。」
 「ああぁ神さん酷いじゃないっすか。牧さんだけじゃなく神さんにも懐いてますよ俺。」
 「でも今ノブは藤真さんが一番気になってるんでしょう。」
 「じ・じ・じんさん、突然何いってるんですか?」
突然の神の予期せぬ台詞に顔を真っ赤にして反論する清田。清田が藤真の顔色を気にしながら一生懸命弁明しようと口をパクパクしてるので神は愉しそうに目を細めてる。
今更ながらに完全に無視された牧の言葉は藤真にも空しく響いた。
 「あれ何ノブ、顔赤くしてるの。藤真さんの”プレー”が一番気になるんでしょう。」
プレーに力を込めて言う神。
 「神さんって意地悪ですね。」
清田が神を恨めしそうな目で見るのが心底おかしいらしく神はニコニコしている。

 「神が意地悪なのなんて今さらだろう。」

藤真が面白そうに二人のやり取りを眺めながらそうきっぱりと言い切ったのを全員が意外そうに見つめた。
 「藤真さん酷いですよ。本人を目の前にして意外と毒舌なんですね。」
神が少し嬉しそうに拗ねたように複雑な顔して言うと。
 「藤真が毒舌なのも今さらだろう。」
と牧が加わる。
 「そうか。」
俺は毒舌か〜?と藤真が牧に向きながら言うと。
 「そうですよ。」
神が加勢する。
 「そうなのか。」
納得できないというように藤真は呟く。
 「そうなんですよ。」
駄目押しをする神。うんうんと頷く牧。少し拗ねた藤真の目は笑っていた。しかし楽しげな話に入れない清田は元気よく声を張り上げ話題転換を図った。
 「もうお腹ペコペコなんスッけど何食べに行きますか?俺はお好み焼きがいいな〜なんて。」
 「ノブ、最近お好み焼きばっかりだね。」
 「大阪に行ってはまったんですよ。ねえ牧さん。」
 
 「お好み焼きいいですね。」

清田の声に被るように突然降ってきたその声は聞かずと全員が誰の声だかわかったが耳は疑った。居る筈がなかったからだ。
 「綾南の仙道!?なんであんたがここに居るんだ。」
まず最初に反応したのは清田だった。
 「仙道どうし・・・。」
牧は清田の言葉をついで仙道にここに居る理由を問いかけようとしたその時牧の言葉をさえぎるように藤真が声をかけた。
 「仙道ずっと待ってることなんてないっていっただろう。てっきり先に帰ったのかと思ったぞ。」
仙道が居ることに驚いた面々は藤真の言葉にさらに驚いた。
 「ひどいな藤真さん、ずっと待ってたのにそんな言われ方ってアキラかなし〜。」
おどけて泣きまねまでする仙道に藤真は不機嫌丸出しで仙道を睨みつけた。でも続いた言葉はその顔には似つかないお礼に言葉だった。
 「悪かったな仙道、・・・・ありがとう。」
 「いいんです。俺が好きでしたことですから。」
まるで恋人同士の惚気を見ているような藤真と仙道のやりとりに牧は少々自棄気味に間に割って入った。
 「お好み焼きいくぞ。」
 「そうっすよ。いきましょう。」
 「そ、そうだな。」と言って照れ隠しに一番前を歩き出した藤真をみて清田は慌てて後を追う。清田は仙道の脇を通り抜ける時に仙道にだけ聞こえるように言った。
 「仙道さん。俺負けませんから。・・・・・待って下さいよ。藤真さん。」 清田が藤真に追いつき隣を歩いているころ神は仙道の横に来て微笑ましく仙道に話し掛けた。
 「ノブは正直だね。僕も正直になってみようかな。ね、仙道。」
神の意味ありげな台詞と鋭い視線に仙道は肩をすくめて答えた。そんな二人のやり取りを聞くともなしに牧は声をかけた。
 「オイ。神、仙道鞄を取ってくるから先行っててくれすぐ追いかける。」
そう言って牧は体育館の鍵を持って部室へと向かった。
 「判りました。牧さん。」
二人の声に牧は背を向けたまま片手をヒョイっと挙げて答えた。


 「牧さん。」
鞄を取り部室から出てく来た牧に待ち構えていた仙道が声をかけた。
 「仙道どうした。先に行っててくれって・・・。」
目を向ける牧に仙道はいつもの読めない笑顔で答えた。
 「牧さんと話したかったんですよ。」
牧は訝しげに目を一瞬細めたが肩をすくめ歩きながら話をしようと部室の鍵を閉め
て歩き出した。
 「何だ仙道?」
 「牧さん余裕ですね。」
 「余裕?そんなことはないが仙道の方が余裕ありそうに見えるぞ。」
 「ありますよ。・・・・こと藤真さんに関しては大いにあるつもりです。」
 「肯定されると腹立つがそうだろうな。」
 「牧さんには負けたくないんですよ。バスケも・・・・。」

 「・・・藤真さんも・」

一瞬間を置いて続けられた言葉、それが主ですとでも言いたげなもったいぶった物言いに牧は仙道の本音が見えたように思えた。
 「そうか奇遇だな俺も仙道には負けたくないんだ。」 
 「そうでしょうね。」
 「そうだ。」
 「でも俺はそんなに牧さんが思うほど懐深くないんですよ。だから今日ついて来たんです。」
 「藤真をここへ越させたのは花形だろう。そして最後に背中を押したのはお前か・・・。充分懐は深いんじゃないのか花形も仙道も。」
 「これで藤真さんがまた笑ってくれるなら構いはしないんです。・・・でも意外でした。牧さんより手強いのがいるなんてさすが海南ですね。」
 「・・・・褒めてるつもりか(苦)」
冗談のような表面上はにこやかなやり取りなのにピリピリと突き刺すような空気、二人は余裕の表情を崩さない、・・・・崩せない。
 「渡せないんですよ。誰にも。」
 「誰にも・・か・・・。」






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