駆け引き上手 2


―― 神が羨ましくなるときがある ―――
 あのとき、あなたが呟いたその言葉
僕にとっては素直にとることのできない言葉でした。



 清田が走り去った後、藤真は神と二人っきりにされてしまいどうしたものかと思っていた。
藤真は神が苦手だった。
神は穏やかなのに表情が読めない。
藤真は自分だけが感じているのかはたまた他の人も感じているのかわからないが神の人当たりの良い笑顔を見てると本当は何を考えているのか判らない時がある。
(腹のそこの見えない男・・・・。そういえば二人は嫌がるかもしれないが神は少しだけ仙道と似ているとも思ったことがあるな。何処がと言われると明確には説明できないけど、いつだったか仙道と話しているときに感じた何かが神にも感じられる。)


 「俺は、神が羨ましくなるときがある。」
藤真にとっては何気なく出た一言だったであろう。特に含みもなく無意識について出た言葉。仙道のことを考えていたからかもしれない。
藤真はこの失言に神だったら冗談で流してくれるかもしれないそう思い神に目を向けた。
ところが神はいつもの笑顔を少しだけ歪めたほんの一瞬だけだったが苦しそうに・・・。
その一瞬の顔が何を意味するのか今の藤真に判る筈もなかった。


神と瞳が合う、藤真は空気がメガトン級に重くなるのを感じ沈黙を破りたくて口を開こうとしたそのときだった。
後ろから「藤真。」と声かけられた。その声の主は牧紳一――――――。
 「それじゃあ藤真さん失礼します。」
そういうと神は気まずい空気もなんのそのいつもの笑顔で去っていった。
 「神、マテ・・・・いやなんでもない。」
藤真は神を引きとめようとしたが引き止めたところで何を言っていいのかわからずうやむやしく呑み込んだ。


神が行ってしまってから二人は暫らく黙っていた。


 「藤真がこんな時間に海南にいるなんて翔陽はまだ練習してるんだろう。」
 「花形たちに任せてきた。牧、呼び出して悪かったな、本当は練習が終わるまでここで待ってるつもりだったんだけど――。」
藤真はそこで言葉を切ると思い出したようにクスっと苦笑した。
 「おまえのところの面白い一年に押し切られた感じか。」 
 「藤真・・・。」
 「牧、練習終わるの待ってるから行ってこいよ。後輩に示しが付かないだろう。監督にも悪いしな。」
監督の苦労はわかるからなと呟き儚げに微笑んだ藤真は今離したら消えてなくなってしまいそうで牧は抱きしめたい衝動に駆られ戸惑った。
 「藤真、体育館までこい。こんなところで待ってることはないぞ。椅子もあるし。」
藤真は一瞬目を丸くしたがまた苦笑し呟いた。
 「海南の奴はみんな強引だな。」



 「神さん、藤真さんは何しに来たんでしょうね。・・・神さん。神さん。聞いてます?神さん。」
牧さんと入れ違うように体育館に戻ってきた神に清田は話し掛けるためにいそいそと駆け寄ってきた。
 「そんなに大声出さなくても聞こえてるよ、ノブ。」
 「そうっスか、ぼうっとしてましたけど。」
 「藤真さんは牧さんに・・・・。」
 「・・・神さん?」
暫らくして体育館内の入り口辺りでざわめきがし始めた。海南の面々が口々に「翔陽の・・・。」「藤真だ。」
「藤真さん?」「あれが翔陽の。」と呟くのが聞こえる。
 「高頭監督、練習中突然御邪魔してすみません。どうしても牧・・・牧君と決着をつけたかったもので・・・。」
高頭と話す藤真の少し苦しそうなその横顔が心に残って清田は藤真から目が離せなくなっていく、いや清田のみならずみんなの視線が藤真に集まる。それが本人の意思に関係なくだったとしても・・・。






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