駆け引き上手 1


自分にとって 何が大切な ものなのか
判らなくなる
どれくらい 大切で 
どれが一番 大切か
順位なんて 決められない
でも大切な 何かがある 
その一瞬には・・・・



 八月某日―――海南大付属高校―――
もう時刻も夕暮れという中、体育館は異様な熱気(殺気?)に包まれていた。
学校も夏休みに入り、殆どの学生は学校へなんてよっぽどのようがない限り近づきもしないため、校舎は静まり返っていたが、その日も海南大付属バスケ部は常勝の旗の下、インターハイ本選に向けて気合の入った練習をしていた。


 「神さーん、さっきのシュートの事なんですけど・・・。」
と水場に向かう神に駆け寄りながら清田は話しかけた。神は先程から立ち止まり何かに気をとられているようだ。
清田は神の正面に回りこみ顔を覗き込んだ。
 「神さん?どうしたんですか?」
神は覗き込んできた清田にさして驚いた風もなく「ノブあれって・・・。」と呟くとさっきから見ていたほうに視線を戻す。
清田も神の視線の先を追う。その視線の先には夕闇の中、木の陰に隠れるように凭れている意外な人物がいた。
 「あ〜、神さんあれって翔陽の。」
絶叫した清田に神はゆっくり頷いて言葉を継いだ。
 「藤真さんだよね。」
神は藤真の方に向かって歩いていくので清田は慌てて後を追った。


 「藤真さん、どうも御久しぶりです。」
とさっきの驚きもなんのその何気なさを装って神が話し掛ける。突然かけられた声に藤真は一瞬肩を反応させたがゆっくりとした仕草で振り返った。
 「神か。久しぶりだな。それにルーキー君も。」
神と清田に答えるとそっと口角を上げた。そのゆったりとした仕草がまた藤真の美貌を引き立てる。清田はその美貌に耐え切れずドキドキを隠すように挨拶も返さず俯いてしまった。その清田の素直な反応に神は愉しそうに眼を細めると藤真の方に目を向ける。
 「海南は気合入ってるようだな。」
うつむいて答えない清田にたいして気にする様子もなく神に話し掛ける藤真、返事を返す神。
二人のやり取りを聞きながら藤真の良く通るその声に反応し誘われるように清田がまた顔をあげると藤真の秀麗な笑顔とぶつかり心臓がわしずかみにされる思いがした。
このままここにいたら心臓が持たないと悟った清田は藤真にキッと顔を向け早口にまくし立てた。
 「藤真さん、牧さんに用があるんっスよね。すぐ呼んできますから。」
というがはやいか、清田はもう走り去っていた。後に残された二人は。
 「面白い一年だな。」
藤真が苦笑しながらいうと神は「そうですね。」とくすくす笑った。


 「牧さん、た、大変です。」
慌しく体育館に飛び込んできた後輩に何事かと全員が振り返った。
 「どうしたんだ。清田。」
休憩を取りスポーツドリンクを飲んでベンチに座っていた牧は清田の剣幕にただならぬ雰囲気を感じ腰をあげて近づいてきた。そんな牧に清田は近づくと牧にだけ聞こえるように囁いた。
 「ま、牧さん牧さん、ふ、ふ、藤真さんが来てます。」
全力疾走でやってきたために顔を真っ赤にし、興奮して(というか藤真を前に緊張したからだが)、しどろもどろにやっとの思いで告げると言うか言わないかの間に牧は凄まじい勢いで走り去っていた。


牧が走り去った後の体育館には訳も判らずボー然と立ち尽くす海南メンバーと練習メニューを増やすかとぼんやり考える監督高頭がいた。






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