恋が本気になるまで 16


目指す場所は 同じ 
目指す答えも 同じ
なのに僕らはいつも別々に歩いていた





 僕は英二との約束であるケジメの時を計っていた。
 英二と乾と僕と手塚が微妙なバランスを保ちつつ日々が過ぎていたある日あの事件は起こった。 


 対氷帝での大将戦、手塚対跡部の試合での出来事。
 手塚の腕。
 英二は顔面蒼白になって手塚を見つめていた。
 自らのダブルスに大石が出れなくなったときよりも計り知れないショックを受けているようだ。
 「ねぇ・・・不二。手塚、大丈夫だよね。」
 不安を前面に出し英二は僕に尋ねてきた。僕は英二を心配させまいと努めて平静に呟いた。
 「大丈夫だよ。」
 最後は上手く笑えてただろうか?
 英二を励ましているつもりが逆に自分を励ましているようだった。
 「ひじをかばって腕をなんて・・・そんなの俺・・知らない。全然知らなかった・・。」
 「手塚は誰にも弱みを見せたくなかったんだよ。それが例え大好きな英二だったとしても青学の部長として・・・。」
 「それでも不二は気づいていたんだね・・・・・・。」
 英二が呟き唇を噛み締めた。僕は何も言うことが出来なかった。
 「手塚の馬鹿・・・・・。」
 暫くして英二は泣き出しそうな瞳でそう呟くとその後、試合が終わるまで黙って見ていた。

 試合後、何事もなかったように勝利を祝う英二を見た。
 僕のケジメの時が近づいている。
 


 対氷帝戦試合後のボーリングを経て、皆と別れた後僕はまっすぐに手塚の家へ向かった。
 心臓が凄い速さで動き始めて試合でも感じたことのない緊張が駆け巡った。
 2年半分の想いに結論がでるのだろうか?僕のこの片想いに・・・。

 「手塚・・・・・。」
 夕闇の空を見上げ僕はポツリと呟いた。最愛の人の名を・・・・。

 突然の訪問に手塚はメガネの奥で驚いていた。ご家族に断ると手塚は僕を外へと誘った。
 「悪いな・・・家には今、乾と大石が着てたもんで・・・。」
 「乾と大石が?」
 「ああ、これから河村の所に行くそうだ。」
 「そう。」
 会話が上手く弾まず、困った。何を切り口に話したらいいんだろう。
 僕は今までどうやって手塚と話していたんだろう?
 「手塚のこと、凄く心配してた。」
 「・・・・・・・・・。」
 誰が?そんな主語などなくとも二人には判っていた。
 僕ら二人の間に存在する彼の人はこんな時でも助けてくれる。

 僕は英二に憧れていた。そしていつか英二のようになりたいと思っていた。
 英二はいつでも真実の笑顔をくれる。僕にはない本当の暖かい笑顔。
 「手塚、君が好きだよ。」
 「!」
 「好きだったよ。でも、もういいんだ。手塚は?誰が必要?今誰と一緒にいたいの?」
 「・・・・・・・・。」
 「僕のこの恋に決着をつけてよ。勝手な言い分だけどこれは君の義務だ。」
 卑怯者で終われない・・・最初で最後の本物の恋だから。もう縋らない、逃げない、挑もうこの恋が終わりだとしても挑み敗れよう。

 「英二が好きだ。」
 やっと言ったね、手塚。ごめんね、英二。
 英二より先にこの言葉を聞いて・・・でもこれが僕のせめてもの復讐。英二より先に手塚の告白を聞いてしまうこと。
 最愛の人からの告白、誰よりも先に聞きたいだろう言葉を僕は英二より先に聞くことで自分の恋に終止符を打ってちょっとした復讐をした。
 試合に勝って、勝負に負けた感じだね。


 「手塚、もちろん英二に告げるよね?」
 僕は晴れ晴れとした気持ちで手塚に告げた。けど返ってきたのはなんとも言えない手塚の苦悶の表情。
 「・・・・・・・・。」
 「手塚?」
 無言の手塚に僕は訝しげに見つめた。
 「英二には告げない・・・・・・。」
 「どうして?」
 「・・・・・・・・・。」
 「手塚!!」
 掴みかからんばかりに手塚に詰め寄った僕に手塚は目を伏せ呟いた。



 「・・・・・・・」

 「ぇ・・・・・・・。」
 今手塚はなんと言った?僕は自分の耳を疑った。








―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―



一人の決着 海堂と不二


 不二は手塚に別れを告げ、どこ行くともなくただ歩いていた。
 手塚の言葉にショックを受けたのは一瞬で直ぐに立ち直ることは出来たがそれ以外にも今日はいっぱいいろんなことがありすぎて不二はまっすぐ家に帰る気がしなかったのだ。
 「ウッス。」
 不二が考え事をしながら歩いているとランニング中のフードの男が立ちはだかり声をかけてきた。
 「?」
 不二が不審気に男を見上げると男はフードを外した。
 「海堂・・?」
 「オッス(お疲れ様です)。」
 「こんな日まで走りこみ?今日はゆっくり休んだ方がいい、明日に疲れを残さないように・・・。」
 「いや、体が疲れてなくて眠れなかったんで少しクールダウンを・・・。」
 「あ、そう?」
 普段の自主練習量が半端でない海堂には一試合ぐらいでは体が眠ってくれなくなっていたのだ。
 「くれぐれも怪我しないようにね。」
 そう言って分かれようとした不二を海堂が腕を掴んで止めた。
 「何?」
 「不二先輩、なんかあったんすっか?」
 「・・・・・・。」
 どうしてだろう?不二はそんな表情で海堂を見た。海堂は部活でも比較的接点が薄くあまり話さない方だったので自分の完璧な筈の作り顔を見破られたことにうろたえていた。
 「別に何もないけど。」
 「しんどそうな顔、してる。」
 きっぱりと言い切った海堂に不二は更に驚き、海堂はこんな話し方をする奴だったろうか?そんな問いが頭の中を駆け巡った。
 「鋭いね。けど海堂、例えそうだとして君はなんでそんなことを聞くの?」
 不二は心の中の不機嫌さを億尾にも出さずにいつも笑顔で続けた。
 「心配だから・・・俺が先輩の心配したらいけないすっか?」
 「・・・・・・・・・・・。」
 今度こそ不二の仮面が剥がれた。

 「ありがとう、海堂。じゅあ・・・ちょっとだけ肩貸してくれるかな。」
 「ウッス。」
 そうして静かに海堂の肩へ不二は額を付けた。海堂は触れた瞬間少しだけ肩を震わせたが何も言わずに只一緒に立ち尽くしていた。

 暫しの休息。





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