恋が本気になるまで プロローグ


本気の恋をした 
それが俺の誇りだと思っていた

本気の恋を胸に抱いた 
幸せだと共に実感できた

本気の恋が胸にのしかかった 
俺には重荷でしかなくなった

愚か者の選択

だからワザと君を傷つけた
その報いがこんなにも辛いとは知らなかったから

本気の恋を手放した 
それでも俺は今でも・・・・・・・



 「大好きだよ。手塚。」
語尾にハートマークが付き、回りの空気がピンク色になったような錯覚さえする。眩暈がしそうな質感が俺を襲う。その名は幸福。
 「菊丸・・・・・。」
そう言ってメガネを直す俺に、「何々」と興味津々の顔した英二が近づいてくる。英二の笑顔が眩しくて、こうして笑顔が守れていることさえが幸福で仕方がなかった。
 「練習中だ。集中しろ。」
おそらく俺の顔はにやけてしまうのを隠すために無理にしかめているのだろう。
こんなに色ボケしている自分が信じられなくて、こんな心を知られたくなくて、わざと怖い顔を作っている俺が鬼部長と言われていることに可笑しくなってしまう。
少し寂しげに下から俺を上目ずかいに見つめる英二。
 「手塚は?」
もちろん俺の答えなど最初から決まっている。今更聞く事までもない。でもこの大きな瞳に見つめられて俺の言葉などは取るに足らないものだろう。
 「英二を愛している。」
そっと誰にも聞こえないように英二の耳に直接吹き込んだ。俺は今世界一デレッとした顔をしているのだろう。こんな姿を1年に見られでもしたらきっと部長リコールだ。

 「コラそこいちゃつかない!」

邪魔をするのは誰だとばかりに無意識に睨みつける俺にからかい交じりの声が聞こえてくる。
 「なんだ不二〜。誰かと思ったじゃんよ。」
二人の世界に水をさす不二に少し頬を膨らませて抗議する英二が何ともかわいくて目を細めてしまう。
 「あ〜あ、もうそのデレデレした顔ったらないよね。部活中に部長がそんな顔していいわけ。大体手塚のニヤケタ笑顔なんて不気味だよ。」
不二が思いっきりしかめっ面で俺に苦情を申し出る。酷い言われようだ。そんなに酷い顔していたのか俺は・・・・。
いつの間にか回りを囲んでいた他のレギュラーメンバーまでも頷いていた。
 「そんなことないじゃん。手塚はいつもかっこいいよ。」
英二の笑顔が特大のハートマークに見え、また顔が緩んでくる。
 「惚気が・・・。」
 「もう勝手にやってよ。」
 「”犬も食わぬ”スッか?」
 「それは夫婦喧嘩だろ越前。」
 「この場合は”目も当てられない”だろうな。」
 「それをいうなら乾、これじゃ見てられないだよ・・・・。」
全員呆れ顔で空き放題言っていた。俺の顔に青筋が立つのがわかる。

 「全員グランド10周。」

 「「え〜〜〜〜。」」
どうして何でという声が飛び交う中俺は冷静に、「20周。」といったが一向に声は収まらないようだ。“横暴だ!職権乱用!色ボケ!”などと言うものもあった。
 「30周(怒)。」


 「思い出を下さい。」
見知らぬ女子に訳の判らない理由で声かけられ俺は正直返答に困った。
何を思い出に寄越せというのだろうか?
俺は今困っていた。本当に困っていた。
 「手塚。何してるの?英二が探してたよ。」
助け舟が来た。
常々思っていたが不二の助け舟は大型の帆船のようだ頼り甲斐がある。
 「すまないが・・・。」
 「ごめん。なんか邪魔したみたいで、でも手塚もう決まった相手いるから諦めてよ。」
不二は俺が言うより早く、にっこり笑って相手の女子に止めを刺した。

 「悪かったな不二。英二は何処にいる。」
 「そんなの口実。手塚が困ってそうな顔してたから余計なお節介かと思ったけど。」
 「ありがとな。」
 「手塚・・・・・。いつから英二って名前で呼ぶようになった?」
 「・・・・・・。英二、言っていたか。」
 「言っていたよ。」
 「そうか気をつけよう。」
 「どうして・・・・・。」
 「?」
 「どうして、どうして気をつけるの・・・・。」
 「それは2人の時だ・・・け・・・・・・。不二?」
不二のおかしな態度に俺が怪訝そうな顔を向けると、不二のいつもの笑顔とは違う物がその表情には浮かんでいた。
 「・・・・・目も当てられない・・・・・・・・・。」
 「・・・・・。」
 「英二はたぶん教室で手塚のこと待っているよ。」
 「あ・・・・ああ。行ってみよう。」


 「菊丸。」
あの後俺は不二と別れ、不二の言っていた通り教室に英二を探しに来ていた。教室のドアを開けすぐに目に飛び込んできた彼に向かって声かけた。
 「あ〜、手塚来てくれたんだ。」
特大のスマイルで俺の腕に飛び込んできた英二にやはり俺は顔が緩んでしまう。幸い教室には人が殆どいなかった。
 「菊丸。何していたのだ。」
 「英二は俺と一緒に課題を仕上げていたんだ。」
英二と俺との抱擁に割って入るような声が後ろから飛んできた。俺は邪魔だとばかりに振り返り声の主を確認した。
 「乾、・・・・・いたのか、すまない。」
 「英二、課題を済ましてしまおう。」
 「そうだった。ごめん手塚。」
えーじ・・・・。
今、乾は英二のことを英二と呼んだか?
俺が菊丸と呼んでいるのに・・いやウォホンそれに組の違う乾と一緒に課題って・・・?聞いてないぞ、英二・・・・・。
俺は意外と嫉妬深い、英二といると本当にいろんな自分を発見させられてしまう。
 「菊丸、乾、練習には遅れるな。」
 俺はそう言って立ち去ることしか出来なかった。


 「待って〜手塚。」
英二が嬉しそうに近づいて俺の耳に内緒話とばかりに唇を寄せてきた。
 「あのさ帰り一緒に帰ろう!それで今日泊まって行ってもいい?」
 「!!」
俺の驚きを勘違いした英二はダメならと言って乾の所に戻ろうとしていた。
 「・・・・いいぞ。」
 「ホント!手塚!ホントにホント!!」
 「ああ。」
 「じゃあ後で部活でね。」
 「ああ。」
そういって英二は乾の方へ戻っていった。
俺は今、顔が破格している自信があった。


その日、乾と英二は少し遅れて練習にやってきた。
俺は当然、グランド10周を宣言した。


 「菊丸先輩。」
 「おちび、何?」
越前と英二が話していた。英二と話す者が何となく気になる。俺は重症のようだ。
 「英二。ダブルスのことで・・・・。」
俺の横を通りながら英二に声かける大石に無意識だが睨みつけてしまったようで大石に苦笑されてしまった。
さすがに少しは自制しなくてはいけないみたいだ。






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